Firestone

花より男子の二次小説です

ご挨拶 & パスワードについて

本サイトに訪問いただきありがとうございます。

「花/よ/り/男/子」の二次創作です。

CPはメインつかつくですが、そのうち類つく、総つく、あきつくも書いていきたいと思っております。

こちらに掲載している文章は、原作者様、出版者様には一切関係ございません。

普段日本語を書く機会が少ないため、誤字脱字や不自然な言い回しなど目障りな点が多々あると思いますが、優しい目で見ていただければ幸いです。

あくまでも素人の趣味で始めたものですので、気に入らない点などあると思いますが、その場合は閲覧をご遠慮ください。
誹謗・中傷・批判等は一切受け付けておりませんので、該当するコメントは削除させていただきます。返信も致しません。

大変恐縮ながら、あらかじめご了承いただければ幸いです。


<パスワードについて>

大人の表現がある記事についてはパスワードを設定しております。

パスワード入力の画面にある2つの質問のご回答をパスワードにしております。花男がお好きな方はすぐに分かる内容だと思います。

なお、パスワードについてはコメントよりお問い合わせいただいてもご回答しかねますことをご了承ください。




riina

Memories 8



あー肩こった。

オフィスにのこっているのはつくしだけ、椅子に座った姿勢で腕をあげ体を伸ばす。座りっきりなので体のあちこちが固くなっている。ゆっくりと首を回しながら、「ラーメン、チャーハン、天津飯、麻婆豆腐、餃子、回鍋肉」、ともしもし亀よの曲調で頭の中に浮かぶ料理を口ずさんでいた。

今日は昼もデスクランチだったし、夜は温かいものが食べたいと思うが、今から家に帰ってもつくのは12時近く、それから自炊をするのは賢明ではない。今の体は中華を欲している。帰り道にあるあの中華店、たしかラストオーダーが12時だったはず。時計の針は11時25分を示している。やばい、早くいかないと夕食までくいっぱぐれる。つくしはデスクに出している書類をすべてキャビネットにしまい、施錠していく。PCをシャットダウンし、部屋の電気を消した後で類から預かっている鍵で個室も施錠する。

これでセキュリティー上問題がないはず。時計の針は11時30分。つくしは中華料理店めがけて急ごうとエレベーターを降りると、普段警備員しかいない薄暗いロビーに類がいた。

「遅かったね、牧野。お疲れ様」

「専務どうしてここに?」

つくしは社内では類のことを役職で呼ぶ。書類に没頭している間にいつの間にか類は帰ったと思っていたため、ロビーにたたずみ類に驚く。

「ん、牧野待ってた。仕事に没頭してたから部屋出るときに声かけなかったけど、お腹が空いてるんじゃないかと思って」

そう言いながら腕をやさしくつかまれオフィスを出る。

「どこに行くの?」

会社を出たので、いつも通り砕けた口調で類に訊ねる。

「ん、牧野中華食べたいんでしょ?」

「えっ、なんであたしが考えてることが分かったの?」

「エスパーだから、俺。牧野が考えてることは大体分かるよ」

つくしが胡散臭そうに類を見ると、笑いながら「牧野、今日ずっと中華料理唱えながら仕事してたよ」と真相を教えてくれる。

自分が独り言が多い質だというのは仕事に復帰してすぐに分かった。つくしの仕事は機密情報や非公開情報を扱うことが多い。その内容を独り言として口走ってしまえば大事だ。なぜ自分のデスクが類の個室の中にあるのか腑に落ちる。

類と連れたって向かったのは、自分が向かおうと思っていた中華料理店だった。席に着くなり、出来立ての料理を出してくれる。

「お腹空いてるだろうと思って、先に注文してたんだよ」

つくしに料理を取り分けながら類が話す。

「でもすごい!全部あたしが食べたかったものばっかり!」

「記憶がなくても味覚は変わってないと思って。ここに来たら牧野はいつもこの料理を頼んでたんだよ」

類は自分の皿にのっている八宝菜の中からニンジンだけを取り出し、つくしのお皿へ入れていく。

「牧野はいつも俺の分もニンジン食べてたんだよ」

「、、、それは嘘でしょ」

「わかっちゃった?」

「分かるわよ。好き嫌いせずに食べなさいよ」

そう言ってつくしは類のお皿にニンジンを戻すと、類は「ばれたか」と言いながらしぶしぶにニンジンを口にする。

食事を終えると、オフィスに車を待たせたままの類のため、二人で歩きながらオフィスへと戻る。


「類はあたしが行くお店にも来るのね」

類と働きながら、花沢家が桁違いに資産家であるということが徐々に分かってきた。お金持ちの人って、ホテルとか三星のレストランにしか行かないと思っていた。

「ん、だって牧野と同じもの食べたいじゃん」

初日に送られてきたレストランのリスト、その大半が庶民的なお店だった。夫婦だけで40年間やっている喫茶店や、チェーン店ではないラーメン屋、夜は小料理屋に変わる魚がおいしい和食屋など、毎日食べてもお財布に優しいところばかり。

この人は本来あたしが行くような店には縁がなかったはずだ。たぶん、いや確実につくしを自分に合わせるのではなく、つくしの世界へ歩み寄ってくれている。

「それに牧野と食べると何倍もおいしく感じるしね」

肌寒い空気の中、類は自然につくしの手を取るとつくしの半歩先を歩いていく。付き合っていない男女が手をつないで歩くなんて、15歳のつくしの感覚では信じられない。だが類と手をつなぐと恥ずかしいというよりもホッとする。きっと以前何度も手をつないできたんだろう。

このつないでいる手に何の意味があるんだろうな、ぼんやりと類の背中を見ながらつくしが考えていると、突然類が立ち止まるのでつくしは類の背中に顔をぶつけることになった。

「ぶっ、どうしたの?」

顔をあげると、類はつくしと手を離し、体をつくしのほうへと向ける。

「俺はさ、こうやってずっと牧野と手をつないでいきたいなと思ってるんだ」

「うん?」

「いつでも牧野と手をつないでいられるようになりたいんだ」

今でも十分手をつないでいるのでは、つくしは顔をひねる。

「ふふっ、こういう言い方だと牧野には伝わらないよね。

牧野、好きだよ。

記憶があってもなくても、俺は牧野が好きなんだって一緒にいればいるほど実感した。

俺はずっと牧野の側にいたいし、牧野にも側にいてほしい」

電灯の明かりでうっすらと輝く類の顔を見る。その顔は冗談を言っている顔ではなかった。

「すぐに答えを出してほしいわけじゃないんだ。でも俺の気持ちを知っててもらいたい。もし牧野が誰かと付き合う準備ができたなら、俺のことも選択肢に入れておいて。」

そういうと類は再びつくしの手を取り半歩先を歩いていく。

「牧野は車に乗ってかえって、俺は少し歩いて帰るから。」

オフィスの車寄せで待つ花沢家の車につくしを入れると、類は「お休み」と言ってドアを閉める。

つくしは今自分がどんな顔をしているのか分からなかった。

15歳の自分だったら、あんなきれいな人に告白されたらきっとうれしかったはず。

だが今自分の胸は喜びより困惑の気持ちで占められている。

25歳のあたしは類のことをどう思ってたんだろう。



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Memories 7



忙しい日々を過ごしていると、あっという間に時間は経つ。

気が付けば記憶を失って1か月が過ぎ、日常生活は問題なく送れるようになった。

「そろそろ家に戻ろうと思って」

意を決してあきらに切り出す。

どれだけあきらの母や天使のような双子にずっといてほしいと言われても、いつまでもお世話になっているわけにはいかない。それにこの先記憶が戻らないままだったとしても、自分の足で歩いていきたい。

あきらからこれまで通り引き留められるかと構えていたら、予想を裏切りすんなりと家に戻ることを快諾された。

「牧野は自分の足でしっかりと歩く奴だったからな。お前の気持ちは分かるよ」

そういって、行かないでと悲しむあきらの母と妹たちを説得してくれる。

久し振りに帰った我が家は、覚えていなくてもホッとする。一か月ぶりに帰ったというのに部屋がきれいなのは、きっと誰かが掃除を手配してくれていたのだろう。友人の優しさに感謝する。

つくしが家に戻って数日後、桜子から食事に誘われた。向かったのはまるでジャングルのような内装のレストラン。

「すごいね、ここ」

細部までこだわったつくりにつくしは感嘆の声をあげる。

「本物の動物を入れようとするのを必死に止めたんです」

ん、誰が誰を止めたのか聞こうとすると、突然走ってきた人に体当たりされる。

「つくしーーーー!!!あいたかったよーーーー!!!」

「滋さん、先輩死んじゃいますから」

呼吸が止まる前に桜子が助けてくれる。

「ねえ、あたしのこと覚えてる?」

小さく整った顔に、均整の取れた体、どこからどう見ても「美人」な女性がつくしに訊ねる。

「滋さんですか?」

つくしが消去法で答えると、「あたりー!」とまた抱き着いてくる。

以前優紀と桜子が前に話していたことを思い出す。たしかに、いろいろ落ち着いてからじゃないとこのパワーには付き合えないなと妙に納得できた。

滋さん、また先輩記憶喪失になった大変ですから、といってつくしに抱き着く滋を桜子が引き離す。

「この店、気に入ってくれた?」

とてもかわいらしい顔で滋がつくしに訊ねる。

「うん、とっても素敵」

つくしの心からの感想に滋はうれしそうな顔をする。

「この内装、つくしが好きそうだなと思って作ったの」

「作った?」

つくしの疑問に桜子が答える。

「この店のオーナー、滋さんなんです」

またもお金持ちが目の前に現れたことに驚く。ほんと、あたしってどうしてこんなスーパーリッチな人たちに囲まれてるんだろう。

「前にあった時、つくしが癒しがほしいって言ってたんだよ。最近ストレスが多いから、気軽に森林浴とかできればいいのにって。ここでたくさん自然を感じて!」

とてもお金持ちだけど、皆とても素敵な人ばかりだ。そしてつくしをとても大切にしてくれていることが分かる。

「あたしって、みんなに大切にしてもらってたんだね」

つくしが呟くと、桜子が珍しく本音を言う。

「先輩が私たちのことを大切にしてくれましたから。みんな先輩に助けられたんですよ」

まだプレオープンというレストランで、ブランコのような椅子に座りながらエスニック料理を食べる。

「すごい、滋さんこれおいしーね」

「でしょ、絶対つくし好きだと思った。これも食べてみて」

目の前には、タイ料理、ベトナム料理、インドネシア料理、韓国料理と無節操に並んでいる。どれも、滋が現地で口にし、つくしに食べさせてあげたいと思っていたものばかりだという。

「ところで、滋さんは学校が違うんだよね」

F4及び桜子は英徳出身だが、滋は別の学校出身だと桜子に聞いていた。

「あたしたち、どこで知り合ったの?」

つくしの質問にみんなの手がとまる。

「えっと、、、、」「これって言っていいのかな、、、」「でも隠す内容でもありませんし、、、」

滋と桜子、そして優紀がこそこそと相談した後、滋はつくしが前に付き合っていた人の元婚約者だと教えられた。

「えっ、それって泥沼じゃないの?」

婚約者から元彼を奪ったと思い、つくしの顔から血の気が引く。

「ううん、違うの違うの。もともとつくしと司が両思いだったところにあたしが無理やり入ろうとしたの。結局司はつくし以外だめだってことで婚約自体破棄になったし、全然つくしのせいじゃないから」

「司っていうのは、道明寺さん?」

つくしの発言に、滋の顔色が変わる。

「つくし、司のことも覚えてないの?」

「う、、、うん、ごめんね」

滋の反応につくしは思わず謝ってしまう。

「滋さん、先輩は高校からの記憶が、、、」

桜子がとっさにフォローすると、「そうだったよね、あたしこそごめんね」と滋は慌てて口にするが、つくしは感じてしまった。滋はもしかしたら今も道明寺司のことが好きなのではないかと。

帰り際滋はつくしをハグしながら、またすぐに会おうねと言う。その表情は嘘を言っているようには思えない。だけど、つくしは先ほどの滋の表情が気になって仕方がなかった。

「あのさ、道明寺さんと滋さんって本当に付き合ってなかったの?」

三条家の車でつくしのマンションへと送ってもらいながらつくしは気になっていたこと桜子に訊ねる。

「先輩はどうしてそう思ったんですか?」

「たぶん滋さんの反応かな。あたしが道明寺さんを覚えていないって言ったときの」

「ほんの少しですよ。滋さんが道明寺さんと付き合ったのは。結局道明寺さんは先輩を選んだんです」

あんなきれいで、性格もよくて、家柄もいい人より自分を選ぶなんて。

以前から友人から聞く元彼、道明寺司について全容が掴めずにいた。

あたしはその人のことが好きだったの?その人もあたしのことが好きだったの?なんであたしたちは別れたの?あたしは、25歳の牧野つくしはその人のことをどう思っていたの?

たくさんの?は浮かぶが、その答えを知っているのはこの世でただ一人、自分だけだ。

失った記憶を取り戻すべきなのか、それとも失ったままのほうが幸せなのか。

以前は失った記憶を取り戻そうと、必死に記憶の断片を集めてきた。でもその行動が正しいのか、もしかしたら記憶を失ったのは自分がそうなりたいと強く望んだからではないか。

つくしは、果たして自分がこれからどう進めばいいのか、つまり記憶を取り戻そうと努力すべきなのか、失った記憶についてはわすれて前だけを向いて歩いていくべきか、完全に方向性を失ってしまった。



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秘書のお仕事 通常業務編



自然光が入り、開放感溢れる広いロビーに、硬い革靴の音とピンヒールの音が響きわたる。

営業時間内、ロビーには自社の社員、訪問してきたクライアント、警備員、受付嬢と多くの人間がいた。だが皆が動きを止め、足音の主を見つめている。

唯一動いているのは、足音の主である司と、その秘書である桜子だけ。


「今振り向いたら、あいつら全員石になるんじゃねーか?」

「私はメデューサではありませんが」

「髪型似てんじゃん」

「専務がお好きな黒髪ストレートじゃなくて申し訳ありません」

「あれはあいつだから似合うんだよ」

「あら、そういえば先輩髪の毛カットされたいとおっしゃってましたよ」

司は足を止めて桜子を見ると、しれっとした顔で

「もちろん止めておきましたが」

と付け加える。


二人は何事もなかったように再び前を向いて歩きだす。

「あいつの髪、男に触らせるなよ」

「御意」

役員フロアに直通のエレベーターの中に消えると、周囲は溜め息に包まれる。


「今日も専務素敵だったわー」

「専務のお姿を拝見できるなんて今日はついてる!」

「ほんと眼福♡」

「三条様、今日も輝いてらっしゃったわよね」

「今日のスーツ、新しいのじゃない?」

「あれ、DI○Rのでしょ」

「靴はどこのかしら?」

「あれ、多分Jimmy Ch○oの新作よ」

「ジミーの新作って来月発売じゃなかった?」

「あんた詳しいわね」

「この子靴マニアだから」

「それにしても、本当に絵になるお二人」

「あのお二人、やっぱり付き合ってるんじゃないのかしら?」

「さっきも見つめ合ってらっしゃったもんね」

「専務のフィアンセって一般の方でしょ?」

「名前まだ公表されてないじゃない。案外仕事に差し支えないように公表してないだけで、三条様がお相手なんじゃない?」

「専務の婚約者の方って同じ学校だったって噂じゃない。三条様って確か英徳でしょ、ありえない話じゃないわよ」

「嫌ー!専務の婚約者なんて想像したくないけど、三条様だったら文句いえない!」

「あんなに完璧な方だったら、私たちが入る隙間なんてないわよね」

二人が去った後のロビーにはまた騒がしさが戻る。

眉目秀麗な二人が、この上もなくくだらない話をしていたとは思いもよらないだろう。


「なんだか今日は騒がしいですね」

司と桜子が去ったロビーに、本当の婚約者であるつくしが上司である事務所のパートナーと共に足を踏み入れる。

「ロビーに活気があるってことは、道明寺HDの業績がいいってことだよ」

「そうなんですか?」

「ロビーに人がいるっていうのは、クライアントがこの会社にわざわざ訪問してるってことだからね。それだけビジネスの種があるってことなんだよ。逆に業績が芳しくない会社なんかだと、社員総出で取引先にお願いに外出がするから、ロビーは閑散とするんだよ」

「へぇー、勉強になります」

まだまだ実務経験の乏しいつくしは素直に上司の話に感嘆するが、ロビーの騒がしさが自分の彼氏と親友のせいだとは気がつかない。


道明寺司の婚約者について公開されている情報はほとんどゼロに等しいといっても過言ではない。明らかになっていることは性別は女性、それだけである。名前はもちろんのこと、年齢、職業、学歴、家族構成、趣味、父親の職業といった情報は道明寺が全精力をかけて機密を保護している。

ネイビーのパンツスーツに今時珍しい黒髪を低い位置で一つに結んだつくしは、その童顔のせいもありまるで就職活動中の学生のようだ。

まさか、彼女が司の高校時代からの恋人であり、結婚を約束した婚約者であり、司がこの世の中で唯一愛する女性だと想像する人間はいないだろう。

そのため司にどうしても近づきたい女達の嫉妬は、見えやすいポジションにいる桜子に向かいがちだ。

過去、桜子が司の秘書として入社した際も一騒動あった。

あの『道明寺司』と四六時中一緒に居られるという特権に加え、桜子自身の美貌とやんごとなき家柄というダブルパンチにより多くの女性から嫉妬を集めることになったのだ。幼稚なものから陰険なものまで幅広い嫌がらせを受けたが、残念ながら桜子の方が二枚も三枚も上手だった。

ダメージを受けないどころか、3倍にして返される仕返しのため、入社3ヶ月後には皆戦意を喪失し、6ヶ月後には秘書課を制圧してしまった。

そして入社一年を過ぎる頃には、社内で敵なしの状態となる。

「どなたもやる事が中途半端なんですよ。物を隠したり、聞こえるように悪口言ったり、無視したり、私に言わせれば小学生レベルです。どうせやるなら、私が三日三晩悔しくて眠れないと思うくらいの嫌がらせををしていただきたいのですが」

涼しい顔でそう話す桜子に、「お前、メンタル強すぎだろ」、「感受性死んでんじゃねーのか」とあきらと総二郎は一瞬でも心配して損したとばかりにぼやく。

高い事務処理能力に加え、この悪意に対する鋼の精神力も桜子が秘書向きと言える大きな要因である。

つくしが司のパートナーとして世に出るまでに、出来る限り悪意の芽を摘んでおきたい。つくしが強い女性だということは分かっている。だが、それ以上に誰にでも、たとえ自分に悪意を向ける人間にさえ共感してしまう優しさを持っていることを桜子は知っている。

どんな悪意に対しても、つくしは口では大丈夫と言いながらも傷つき、自分を責めてしまうだろう。

だからこそ、桜子は定期的に司に同行して外出することで「嫉妬」と「悪意」を持つ者の炙り出しを行う。

その気持ちは撒き餌をして魚がかかるのをまつ釣り人に近いのかもしれない。多くは雑魚ばかりだが、ごく稀にかかる大物のため息を潜めて静かに相手が食いつくのを待つ。

僅かな浮きの動きすら見逃さないように、細心の注意を払いながら。

そんな時、きっと自分は肉食獣のような顔をせているに違いない。

F4と同じく、桜子は狩る側だ。

つくしには決して見せない顔。

エレベーターに乗る直前に感じた視線を思い出す。あの顔はうちの会社の人間ではない。

このところ平和な日々が続いており、退屈していたところだ。暇つぶしになればいいのだけど、根っからのドSな桜子は嬉々として報復を考える。

「何かいいことでもありましたか、三条さん」

秘書室に戻ると上司である西田から声をかけられる。

「あら、顔に出てましたか?」

「やり過ぎは禁物ですよ」

西田の忠告に微笑みを返す。

「善処致します」

そういう西田も桜子と同じ穴の狢だ。ただ、忠誠を誓う対象が違うだけ。


「さくらこー」

秘書室の入り口から名前を呼ばれる。

「ごめん、取り込み中だった?」

西田と話していた桜子を見て、つくしは小声になる。

「いえ、大丈夫ですよ」

西田が答えると同時に桜子は席を立ちつくしの方へと歩いていく。

「どうしたんですか、先輩?」

「この間話したでしょ、事務所の近くに美味しいシュークリーム屋さんがあるって。今日たまたま出来立ての時に店の前通ったから買ってきたの。秘書課の皆さんで召し上がって」

そう言って甘いバニラビーンズの香りが立ち上る紙袋を差し出す。

「最近外出多いんでしょ?疲れた時は甘いものがいいよ」

親身に自分の体を心配してくれるつくしに、母親が生きていたらこんな感じだったのかなと、先ほどまでの邪悪な気持ちは浄化されていく。

「せっかくですから、先輩一緒に食べましょうよ。今お茶の準備しますから、奥の第三応接室で待っててください」

そう言って部屋を出ると給湯室を通り過ぎ司の執務室へと向かう。上司に甘い差し入れするために。

秒速で司が奥の部屋に消えた後、そっと部屋の表札を「使用中」へと変える。

少なくとも1時間は取り込み中だろう。その間桜子はゆっくりとお茶を入れシュークリームを楽しむ。

たしかに疲れた時には甘いものだ。

休憩後、この後機嫌が確実にいいであろう上司のために、ややこしい承認事項をまとめる。今回も承認まで最短記録を更新できそうだと桜子はほくそ笑む。





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Memories 6



「生活には慣れた?」

退院して以来、メールや電話では連絡を取っていたものの、優紀と久しぶりに顔を会わせる。優紀とともに現れた、まるでモデルのように可愛いらしい女の子は三条桜子と名乗る。

「桜子でいいです。先輩からはずっとそう呼ばれていましたから」

「あと一人、大河原滋さんと合わせて、4人でよく集まってたんだよ」

「そうなんだ。今日その滋さんって人は来てないの?」

つくしが尋ねると、優紀と桜子は目を合わせる。

「えっと、、、」

言いよどむ優紀に変わり桜子が説明する。

「滋さんは大財閥のお嬢様なのですが、良くも悪くも非常にパワフルな方なので、先輩がもう少し生活に慣れるまではお会いしないほうが良いかと思いまして」

パワフル、、、ここ数日出会った人はつくしが知っている限り皆パワフルだ。まったく価値観も常識も違う、それでも一緒にいると心から安心できる。

退院してからの2週間を思い出す。

いまだに美作家に居候し、類と一緒に働き、仕事帰りに習い事だと言って総二郎の家でお茶を習う日々。3人からは何も言われない。ただ、自分を見つめる視線に友情以上の感情が含まれていると感じるのは、優紀の言葉が残っているからなのか。

『あの3人はつくしに好意を寄せていたのよ』


「慣れたか慣れてないかでいうと、頭の中は未だにパニックなんだけど、体は自然になじんでるみたい。考えるより先に手が動くっていう感じで、今のところ仕事はなんとかできてるよ」

そして意を決して、この2週間ずっと考えていたことを口にする。

「あのさ、、、あたしって類と付き合ってた?」

つくしの質問に、優紀と桜子は目を合わせる。

「どうしてそう思うの?」

「類に微笑まれるとあたし赤面しちゃうんだよね。それに一緒にいると居心地がいいというか、安心するって言うか。よく食事とか言ってたみたいだし、手をつなぐのとか自然だし、つき合ってたのかと思って、、、」

最後はしりすぼみに優紀に説明する。

「桜子ちゃん、どう思う?」

優紀は桜子の考えを聞く。

「私は、先輩と花沢さんはお付き合いはされていなかったと思います。まあ、私たちに隠れて二人で付き合っているならともかく、私は先輩からは何も聞いてないですし。でも、花沢さんは友人としていつも先輩の一番近くにいらっしゃいました。」

桜子の答えを聞き、そっかーとつくしはテーブルに顔を伏せる。

「花沢さんと付き合ってないって分かってショックだった?」

優紀が尋ねる。

「いや、ショックじゃなくて、なんだかホッとしたって言うか。だって、いきなり付き合ってますって言われてもどう接していいか分かんないしさ」

もじもじ話すつくしに、「記憶をなくされる前の先輩も男性関係にはとても奥手でしたよ」と桜子がフォローする。

「じゃあ、美作さんと西門さんとも付き合ってないんだよね?」

「あの二人、相変わらずなんですね」

桜子の言葉に首をひねると、「先輩がそう質問するってことは、二人は先輩にモーションをかけてるってことですよね」と桜子が答える。

「いや、モーションかどうか分からないし、あたしの勘違いだと思うんだけど、、、」

「いえ、勘違いではありません。あのお二人は、ここ数年ずっと先輩にモーションをかけてましたから」

優紀からは教えてもらっていなかった情報だ。

「あの人たち、花沢さんも含めてですけど、道明寺さんと別れてからというもの先輩にずっとアプローチしてますよ」

「えっと、道明寺さんってのはあたしが昔付き合っていた人のこと?」

「ええ、先輩が高校2年生から4年間お付き合いされてた方です」

そんなに長く付き合ってたのに、忘れちゃうもんだね。つくしが他人事との様に話すと桜子が一瞬悲しい顔をした。

「ねえ、どうしてあたしその人と別れたのかな?」

「私たちには、遠距離恋愛に疲れたっておっしゃってましたけど、、、」

「遠距離?」

「道明寺さん、大学卒業してからNYに行かれたんですよ。」

先日優紀から聞いていたことを思い出す。元彼はNYにいると。

結局優紀と桜子と話して新たに分かったことは、つくしは二人の知る限り今は誰とも付き合っていないということ、だが3人はつくしにアプローチをしていること、そして過去4年間も付き合っていた人がいたということだった。



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Memories 5



結局あきらの家にそのままお世話になることになったが、その家の広さと内装にここでもつくしは度肝を抜かれる。きっと不思議の国のアリスもこんな気持ちだったに違いない。テーマパークのようなメルヘンな部屋の中に、これまたフランス人形のようにかわいらしいあきらの母と双子の妹、そしてプリンスチャーミングのようなあきら。まるで中世に描かれた絵画の様だ。そこに一人たたずむ、日本人の平均を代表したかのような自分。はたから見たらさぞシュールだろうと自虐的な気持ちになる。

つくしの記憶にある実家よりも広い客間を使うように言われ、あきらが言っていた意味がようやく分かった。たしかに、ここまで広いとあたし一人お世話になっても全然問題なさそう。部屋はホテルのスイートルームのように(泊まった記憶はないが)、リビングの隣にベッドルームがあり、その先にバスタブ付きのバスルームがある。なんとバスタブは猫足だ。普段そこまで少女趣味はないつくしだが、これにはテンションが上がる。まるでお姫様になったようだ。天蓋付きのベッドに横たわると、部屋の呼び鈴が鳴る。急いでドアを開けると、使用人らしき人たちが次々に荷物を運んでくる。

「えっと、これは?」

「牧野様のご自宅にあった私物でございます。あきら様よりお部屋にお運びするよう申し付かっております」

テキパキと衣類やパソコンや小物をキャビネットにしまっていくと、つくしがお礼を言う間もなく使用人たちは頭を下げて帰っていった。ドアが閉まり正気に戻ったつくしは、恐る恐るキャビネットの中をのぞく。

ここには洋服ね、これは常備薬かな(やけに胃薬が多い)、こっちは靴ね、次々に扉を開き場所を確認する。今目にしたものには何の違和感もない。15歳の自分が選んでもきっと同じものを選ぶだろという物ばかりで妙に落ち着く。

そして最後のキャビネットにはアクセサリーがしまわれている。あたしでもアクセサリーしてたんだな、耳に手を当てるとピアスの穴が開いている。なんだか自分がとても成長したように感じられて落ち着かなくない。


疲れただろうからと自室に夕食を運んでもらうと、つくしはゆっくりとお風呂に入りふかふかのベッドで寝る。

明日こそは職場にいかないといけない、と謎の義務感に駆られながら眠りについた。


翌朝スーツらしき洋服に着替えた後、荷物として運び込まれた化粧品を使い眉とチーク、口紅を顔に乗せる。こういうことは体が覚えているらしい。まったく化粧をしたことはないにもかかわらずスムーズに筆が進む。鏡で全身を見ると、そこには薄化粧だが25歳らしいつくしが映っている。制服がスーツに変わった以上に大人になった気がする。

朝食と案内された部屋には、あきらとあきらの母、そして類が座っていた。

「おはよう牧野」

微笑みながら朝の挨拶をされ、つくしの動きは止まり顔が赤くなる。

「記憶がなくても、類の顔には反応するんだな」

あきらがコーヒーを飲みながら感想を漏らすと、

「だって俺は牧野の初恋の相手だからね」

朝から爆弾を落とされる。

「えっ、花沢さんがあたしの初恋の相手なんですか?」

類の発言に食いつくと、「花沢さんじゃなくて類でいいから。牧野からはずっとそう呼ばれてたから」と類はにっこりと笑う。たしかに、言われてみれば類はつくしの好みドンピシャだった。透き通るような色素の薄い髪と皮膚、同じく色素が薄くまるでガラス玉のような瞳、そして天使のような微笑み。幼いころ大きくなったら結婚したいと思っていた王子様そっくりだ。でも、一昨日優紀から聞いた話が頭をよぎる。あれ、優紀がたしか花沢さんもあたしに好意を持ってくれてたって言ってたよね。ということは、あたしはやっぱり花沢さんと付き合っているの?微笑む類の顔を見ながらつくしは頭を悩ませる。

とりあえず朝ごはん食べなよ、食べないと元気でないでしょと席に案内されると、目の前に次から次へ料理がサーブされ、焼き立てのパンの香りが食欲をそそる。

記憶がなくてもお腹は減る。出された料理をおいしく食べ終わると、類から「そろそろ行こっか」と声をかけられる。

「えっと、どこにですか?」

「会社に」

いつの間にかつくしの手を取り類は廊下を玄関のほうに向かって歩いていく。

「職場って、丸の内にあるって言う法律事務所ですか?」

「ううん。牧野今うちに出向してもらってるんだよね」

「うち?昨日の病院ですか?」

「あれはメインの事業じゃないんだよ。うちの親が会社をやってるんだ。おれは本社勤務で、牧野にはあるプロジェクトを法律面から手伝ってもらうため、2か月前から出向してもらってたんだよ」

乗せられた車の中で話を聞いているうちに、いつの間にか目的地に着いたらしい。だが、車は地下に入っているためビルの全容までは分からない。だが、つくしが考えていたより規模がはるかに大きいことは確かだ。

「ここは役員専用の駐車所」

キョロキョロするつくしに、類が短く説明してくれる。

「役員?」

「そっ、おれ一応専務だから」

つくしは目を見開く。

「牧野そんなに見開いたら目が落っこちちゃうよ」

そういって類がつくしの顔の下に手をおく仕草をする。

「こういうやり取り、以前もやりましたか?」

既視感を覚えたつくしの質問に、類は微笑む。ああ、あたしはこの人の微笑む顔に弱いみたいだ。類が微笑むとまるでパブロフの犬の様に頬を赤らめる自分がいる。

「とりあえず、牧野は風邪で休んだったことにしてるから、他の社員に何か聞かれても適当に答えればいいから」

その適当なアドバイスだけでいきなりオフィスへと放り込まれる。ひえー、ドラマで見る会社見たい。みんな頭よさそうだなー、なるべくキョロキョロしないように心掛けながら、つくしは類の後に続く。

「ここが牧野のデスク」

そういって指さされたのは、広いフロアの中、一つだけある個室の中の置かれた2つのデスクのうちの一つだった。

「ここですか?」

「そう。専務室って上の役員フロアにあるんだけど、堅苦しくって。だから俺普段はこの部屋で働いてるんだよね」

そういって広いデスクの上に座る。

「牧野は俺についてもらってるから、同じ部屋にデスクを入れてんの。」

この部屋にはあまり人が入ってこないから安心して、そういうと類は朝一の会議ってめんどくさいなーと言いながら部屋を出ていく。

とりあえず指さされたデスクに座り、PCの電源を入れる。鞄の中に入っていた社員証には、鍵が2つつけられていた。そのうちの1つを使い、机の横にあるキャビネットを開くことができる。中に何度も手にしたのだろう、ボロボロになった六法全書とともに、分厚いファイルがアルファベット順に並んでいた。きっとこれが類の言っていたプロジェクト名だとあたりをつける。聞きなれない単語が並んでいるにも関わらず、すっと頭に入ってくる。そして立ち上がったPCにはパスワードの入力を求める画面が現れる。パスワード、パスワード、考えていると自然と手が動く。

「Nikumandaisuki13!」

なんつーセンスのないパスワードだ、エンターキーを押しながらそう思うがどうやら入力はあっていたらしい。これはきっと類が設定したに違いないとつくしは確認する。

見覚えのあるデスクトップ画面ではないが、恐る恐るマウスを操作しフォルダの中を確認する。パソコンってあたしあんまり操作したことなかったんだけどという本人の思いとは裏腹に、こういうことは自然と体が動くらしい。

流れ作業の様にメールを立ち上げ、未読のメッセージに目を通していく。半分以上が英語、そして1/5がフランス語、そして残りは日本語と言えど専門用語が並んでいるが、内容は理解できる。

ちゃんと働けるのだろうかと不安だったが、その点は大丈夫の様だ。次々に未読メールを見ていると、新しいメールを受信したとポップアップがでる。最新のメールを開くと、それは類から送られてきたものだった。仕事内容かと気持ちを引き締め目を通すと、

「ランチどこに行きたい?」

という文章の後、ずらりとお店のリストが並んでいる。そして最後に「どの店も牧野がおいしいって言ってたとこだよ」と添えられている。

その数50個以上。

あたしはあの人と少なくとも50回以上食事に行ってるってこと?それって付き合ってるってこと?謎は深まるばかりだ。


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Memories 4




翌朝、やはり自分が25歳のままだと気が付いたつくしは唖然とした。やっぱり昨日のことは夢じゃなかったんだ。

鏡に映るのは頬がシャープになり、すこし大人っぽくなった自分。でもこれが25歳の自分だという実感がわかない。こんな状態で、今日からどうしよう。仕事とか覚えているのかな、途端に現実的な不安が押し寄せてくる。

そして昨日は動転しすぎて気が付かなかったが、つくしは自分が大きな個室に入院していることに気が付いた。貧しくはないが決して裕福ではない社宅住まいの牧野家の経済状態を考え、こんな広い部屋うちじゃ入院費払えないはずと不安になる。一晩いくらなんだろう、考えるだけで恐ろしい。

それに頭にたんこぶがあるだけで、体はなんともない。このまま入院した場合、入院費だけではなく職場に迷惑をかけることも考える。きっと、急に休んだら会社も困るよね。弁護士なんて忙しい仕事だろうに。

ぐるぐると考えていると、棚の上に鞄が置かれていることに気が付く。何の特徴もない黒いトートバッグに、自分の好みはこの10年で変わっていないことが分かった。シンプルが一番、華美な装飾など全くない黒い鞄。だいぶ使い込んでいるが、丁寧に手入れされていることが分かる。きっとあたしはこの鞄を大切にしていたんだろうな。

自分のものだと分かっていても、知らない鞄の中をのぞくのはなんとなく後ろめたい。きょろきょろと誰もいないことを確認し、そっと中を覗いてみると思ったよりも物は入ってなかった。あ、化粧ポーチがある、それに鞄と同じくシンプルなお財布も財布の中に入っていた免許証と保険証には、「牧野つくし」という印字とともに、つくしの生年月日がのっている。つくしの財布で間違いないだろう。あとはハンカチ、ティッシュにこれはなんだろう。ぴかぴか光っているものを取り出すと、昨日あの3人から教えてもらった携帯だということが分かる。

わー、あたしもこんな携帯もってたんだ、使いこなせるかな?恐る恐る画面を押すと、「ホームボタンを押してロック解除」と表示される。ホームボタンってと考えるが、無意識に自分の親指を機械の一番下の丸い部分に置いている。すると難なくロックは解除されたよう腕、小さな正方形が並んでいる画面に変わる。あ、これ使い方知ってる。記憶がなくても携帯の操作方法は覚えているようだ。緑の正方形の右上、赤い小さな丸に「32」と表示されているのが気になりタップすると、メールのやり取りらしき画面にうつった。ただ、誰とメールをしているのか、名前を見ても優紀くらいしか分からない。

うーん、、、これからどうしよう。。。

とりあえず運ばれてきた朝ごはんを食べ、顔を冷たい水で洗っていると部屋の扉がノックされる。お医者さんかな、そう思いつくしは「どーぞ」と声をかけると扉がスライドして開く。その先には昨日会った3人とつくしの両親が立っていた。

「もー、あんたって子はいくつになっても心配かけるんだから」

「ほんとたぞ、つくし。類さんから連絡貰ってパパたち急いできたんだからな」

少し白髪の混じった両親は、つくしが覚えているより一回り小さく見える。

「えーっと、迷惑かけてごめんね、パパママ」

とりあえず謝ると、二人は顔を見合わせ、「大したことなくてよかった」と言い合っている。実の娘の10年分の記憶が失われているにもかかわらず大したことがないと言い放つ二人に、ああ、この人たちは何も変わってないと実感する。人はそうそう変われないものらしい。

「それで、あたし退院したいんだけどさ、家ってどこにあるの?」

つくしの両親は顔を見合わせる。

「どこって、あんたは今一人暮らしでしょ。ママたちは沖縄の離島で住み込みで働いてるんだから」

さも当然の様に答えるママに、つくしの代わりにあきらが答える。

「おじさん、おばさん、さっき話した通りつくしさんはここ10年の記憶を失ってて、彼女は今15歳なんですよ」

「えー、でも見た目は全くかわらないじゃない」。

「見た目が変わらなくても、あたしは15歳から昨日までのこと覚えてないの!」

つくしの主張にも、「そんなのすぐ思い出すよ」と軽く返してくる。つくしの母は相変わらず楽天的だ。だめだ、この人たちに話が通じる気がしない、つくしはがっくりと肩を落とす。

「牧野のマンション、千代田区にあるよ」

類が知りたかった答えを教えてくれる。なぜそんな家賃の高そうなところにと聞くと、働いている弁護士事務所の社宅扱いで家賃は会社持ちだという。そして職場は丸の内のビルにあるとも。ただビルの名前を言われてもつくしには分からない。

その後医師の診察で退院しても問題ないと診断されたため、つくしはすぐに看護師に退院手続きをお願いする。

「もう退院手続きは完了しております」

そう返され、つくしは両親をみるが、両親は首を横に振っている。彼らが入院費用をはらったわけではなさそうだ。

「ここ、うちの病院だから」

類の発言につくしは目を見開く。こんな大きな病院の跡取りだなんて、やっぱり英徳に通ってるだけあってお金持ちなんだな。よく見なくても3人とも顔だけじゃなくて身なりもいい。ますますなぜ自分とこの3人が仲良くしているのか、まして好意を寄せられているのか理解できない。きっと優紀の思い違いだろう、ただの先輩後輩に違いない。

「えっと、じゃああたしは自分の家に帰りたいので、どこにあるのか教えてもらってもいいですか?」

つくしのマンションを知らないという両親には頼れず、つくしはあきら達に訊ねると、そんな状態で一人でマンションで暮らすなんて大変だろうから、落ち着くまでうちで過ごせばいい、要約すればこのようなことを三者三様に言われる。そんなこと言われても、今のつくしには3人の記憶はなく、いきなり家にお邪魔するなんて肩身が狭すぎる。それにご家族にも迷惑かけちゃうし、、、断ろうと口を開く前に、母親が「つくし、美作さんたちのお言葉に甘えてお世話になりなさい」と信じられないことを言う。

「だってママたち仕事があるからすぐに島に戻らなきゃいけないし、つくしが皆さんのお邸にいると思ったほうが安心できるでしょ」

妙齢の娘が男性の家に泊まることを進めるなんて、なんて非常識な親なんだと怒りがわいてくる。

「多分お前が思ってるような家じゃないから」

あきらが付け加える。

「うちには両親のほかに双子の妹も住んでるし、客間は10部屋以上ある。お前ひとりが止まるのなんてまったく問題ねーよ。それにうちにはよく遊びに来てたし、妹たちもお前になついてるしな」

つくしは大学時代、美作家で双子のシッターという名の遊び相手として週に2回バイトしていたらしい。

「それなら、お前はうちの母親とも仲良かったからうちに泊まればいだろ」「そんな家の人間がいるところなんて牧野の気が休まらないでしょ。その点うちなら両親はフランスだし、俺以外にいないから気兼ねないしね」

3人がバチバチと視線を交わす。当事者であるつくしは蚊帳の外だ。

どうしよう、そう考えていると廊下が騒がしい。パタパタと足音を立てて入ってきたのは、まるでフランス人形のようにかわいらしい女性。

「つくしちゃん、あきら君から話はきいたわ!記憶のないつくしちゃんを一人になんてしておけない!ぜひうちに泊まって!娘たちもつくしちゃんが泊まるの楽しみにしてるのよ」

顔に似つかわしくないテキパキした声でつくしの手を取りながら話す女性を、つくしはおそらくあきらの姉だろうと考える。

「えっと、美作さんのお姉さんですか?」

つくしが聞くと、「もーつくしちゃん!相変わらず可愛いんだから!」とハグされる一方、あきらはげんなりとした顔をして「姉じゃなくてお袋だよ」と補足する。

お母さん、、、

26歳の息子がいるようには到底見えない。

あんぐりと口を開けるつくしの側で、母親が勝手に「ご迷惑おかけしますがよろしくお願いいたします」とあきらの母にお願いしている。

「ちょっと、ママ。あたしお世話になるなんて言ってないよ」

つくしの言葉は二人の母親には届かない。あきらの母親はテキパキとつくしの荷物を車に運ぶよう後ろに控えていたSPに指示を出す。

一方申し出を断られた形になる類と総二郎は、あきらを恨めし気に睨む。

「おばさんを出してくるなんて、お前卑怯だぞ」「あきらって本当に腹黒いよね」

二人からねちねちと嫌味を言われてもあきらは意に返さない。さっとつくしのトートバッグを持つと、つくしを車までエスコートする。

ああ、これからあたしどうなっちゃうの。まるでジェットコースターのような展開に追い付かずつくしはしばらくの間フリーズした。




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Memories 3



先ほど病室に現れた優紀は、つくしの知っている優紀からとても大人っぽくきれいになっていた。優紀のお姉さんそっくり。思わず、「やっぱり優紀美人だね」と口走る。

優紀と入れ違いに3人は仕事があると言って帰っていく。

優紀から、15歳から25歳までの牧野つくしのことを聞くのは、なんとも奇妙な感じだった。

高校からは別の学校だったが、バイト先が一緒でずっと仲良くしていたこと、大学に入ってもその関係は変わらず、つくしが高校時代親しくなった先輩たちも含め、よくみんなで集まっていたこと。そしてあの3人以外にもう一人先輩がいたということ。

あたしが進学したのは英徳学園の高等部で、その学園で先ほどの3人にもう一人を加えた4人がFlower Four、人呼んでF4と呼ばれる人にであったこと。

そして優紀の口から驚愕の事実が告げられる。

「つくしは、F4の一人と付き合っていたんだよ」

つくし先ほどあった3人の顔を思い浮かべる。

「誰と付き合っていたのか教えて」

意を決して尋ねると、今日いなかったもう一人の人だと教えてくれる。名前は道明寺司。あの3人の友人だ、きっとこの人も美形なんだろうと考えると、なぜ自分がそんな人と付き合っていたのか謎は増えるばかりだ。

「付き合ってたってことは、いまは別れてるってこと?」

つくしの質問に優紀は首を縦に振る。道明寺司が高校を卒業した後NYへと渡り、東京にいるつくしとずっと遠距離恋愛をしていたが、つくしの大学卒業を待たずに2人は別れたと教えてくれる。

なるほど、別れてるんだったらわざわざ別れた元彼女のところにお見舞いには来ないよね、先ほど道明寺司がいなかったいなかったことに納得する。

「ねえ、優紀。こんなこと聞くのも変なんだけどさ、あたしって今付き合ってる人いた?」

先ほどの3人のことを思い出す。うぬぼれみたいで恥ずかしいが、つくしと仲が良かったと言う3人が自分を見つめる視線に、友達以上の感情が込められている気がした。

優紀は昔からの困った時の癖で、眉を寄せた表情をする。

「たぶんいなかったんじゃないかと思うけど、、、」

「たぶん?」

「そう。つくしとはお互い社会人になっても定期的に会ってたんだけど、道明寺さんと別れた後からつくし、好きな人とか恋愛ネタについては口にしなかったのよ。」

あたしのことだ、きっと道明寺という人と付き合っていたのは友達の延長のようなもので、好きな人はいなかったのかもしれない。つくしは淡い恋心を抱いていた同級生の顔を思い浮かべる。だって織部君ともあんなに仲良くなっても、好きって言えないくらいだもんね。

「じゃあ、さっきの3人は単なる友達なんだね」

やっぱり自分の勘違いだったな、うっかりあの3人のうち誰かと付き合っているのかもと思った自分が恥ずかしくなる。だが優紀の返答はつくしの困惑をさらに深めた。

「3人ともつくしに好意を寄せていたよ。たぶんつくしは付き合ってくれって告白されてたんじゃないかな。」

聞き間違いかと思った。あんな美形の人たちに好かれる要素なんて、自分の中にあるはずがない。

「あたしがあの3人に付き合ってくれって言ったの?」

もう一度聞きなおす。

「ううん、あの3人がつくしのことを好きなの。」

聞き間違いじゃなかったら、一体何が起きたのだろう。つくしは一旦頭の中を整理しようとしたが上手くまとまらない。絶世の美男子3人から告白されたのに、付き合っていない(たぶん)。一体自分に何が起きたのか。

その後もたわいのない雑談をした後、優紀はそろそろと帰ろうとする。

「ねえ、あたしって働いてるんだよね。何をしてるのかな?」

25歳と言えば大学を卒業して働いているはず。職場の人には連絡したほうがいいのかなとしっかりもののつくしが顔を出す。

「あ、ごめんごめん。それ言い忘れてたね。つくしは弁護士だよ」

思いもよらない職業につくしは目と口を大きく開く。

「うそでしょ」

「ふふ、本当。つくしすごい頑張って在学中に司法試験に合格したんだよ。本当に頑張ってた。合格した時は皆で盛大にお祝いしたんだよ。今は有馬・近藤・藤崎法律事務所ってところに勤務しているよ」

弁護士になりたいと考えたことはあるが、まさかその夢をかなえていたとは。15歳から25歳の自分は頑張っていたんだと知るのはうれしかった。

「休みの連絡はきっと美作さんたちがしてると思うよ。その辺しっかりしてるから」

先ほど会った3人の中、もっとも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた髪の長い人の顔を思い浮かべる。確かに、あの人しっかりしてそう。

その後、今日はゆっくり休んでと優紀は病院を後にした。

一度の大量の情報を取り込みつくしの頭はパンク寸前だった。こんな時は寝るに限る、つくしはベッドに横になると、明日目覚めたら15歳の自分に戻ってますようにと強く願った。




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Memories 2





そんな、信じられるわけがない。

医師から伝えられたことはさらにつくしを混乱させた。

自分は15歳の中学生だったのに、目覚めたら25歳になっていた。つまりまるっきり10年の記憶を失っていることになる。記憶以外にはなんら問題はないと言われたが、記憶がないこと自体で大事だ。

「ねえ、ママとパパはどこですか?」

医師と入れ違いに再び戻ってきた3人に訊ねる。

「牧野の親は、今沖縄の離島にいるんだよ。明日到着する予定だ」

つくしの父は普通のサラリーマンで、母は専業主婦だったはず。そんな二人がなぜ沖縄の離島に?

「進は?」

一緒に住んでいた弟の名前をあげると、今はイギリスの大学に留学していると言われた。あの子供だった進がイギリスに留学、、、

いくら質問に答えてもらっても、つくしの頭はこんがらがるばかりだ。

その3人以外にあたしが知っている人、あたしのことをよく知っている人、考えても一人の名前しか思い浮かばない。

「あの、、、友達、松岡優紀って言うんですけど、優紀に連絡とりたいんですけど?」

そうお願いすると、俺が連絡すると言い黒髪の男性が電話をかけるために病室を出ていく。なぜあの人が優紀の連絡先を知っているのか、そこまでつくしは頭が回らなかった。

部屋に訪れた沈黙が重く、思いついたことを口に出す。

「それなんですか?」

ベッドのサイドテーブルに置かれた黒い物体が先ほどから気になっていた。さっき電話に出た人もその物体を手に持っている。

「これ、携帯だよ」

ガラス玉の目をした男性が教えてくれるが、俄には信じられない。だって、携帯ってパカパカ開くやつでしょ。あたしも高校に入ったら携帯買ってってママにお願いしてて、カタログを見てたからわかる。あんな携帯どのカタログにも載ってなかった。

「これ、スマホっていうの。スマートフォンの略。携帯が進化して、通話とメールだけじゃなくて、インターネットにつないでいろんなことができる機械」

髪の長い男性が親切に教えてくれる。彼はつくしの記憶がないことを理解してくれているようだった。

「あの、、、あなた方のお名前は、、、あたしとどういう繋がりがあったんでしょうか?」

恐る恐るずっと気になっていたことを聞いてみると、親切に髪の長い男性が答えてくれる。彼は美作あきら、ガラスの目の人は花沢類、そして先ほど電話をかけに部屋の外に出たのが西門総二郎という名前だと教えてくれる。みんな年齢は26歳、つくしの1つ上、高校時代の先輩という。

こんなイケメンたちと知り合いだなんて、、、この10年あたしは一体どんな人生を送ってきたのよ。

つくしには到底信じられないが、この3人つくしはとても仲が良かったらしい。4人で食事をした後、店を出てすぐ何かの液体で濡れた床に滑って転倒し、頭をぶつけて気を失ったため病院に連れてこられたと教えてくれた。たしかに、言われてみれば後頭部にこぶらしきものができているが全く痛みは残っていない。昔からの石頭も健在のようだ。

「あの、、、鏡ってありますか?」

こぶを確認しようとつくしが聞くと、あきらが洗面台に置いてある鏡を取ってくれる。


「えっ!」


鏡を見て思わず驚きの声を出してしまった。

「どうした?」「何か思い出したか?」「どこか痛い?」

「いや、、、こんな格好いい人たちと親しいだなんて、てっきりあたしこの10年間ですごい美人になったかと思ったら、全然変わってなくて、、、」

口々に心配する3人に思わず本音を漏らしてしまう。

「ぶーーー!」

類が肩を震わせながら吹き出す。

「さすが、記憶がなくても牧野だよ」

そういうとゲラゲラとお腹を抱えながら笑い続ける。ちょっと、そんなに笑わなくても、、、つくしがむくれた顔をすると、「その顔、俺たちの知ってる牧野もよくしてたぞ」と総二郎が教える。

「中学生から顔はあまり変わってないと思うけど、でもとても素敵な女性だったよ、俺たちの知ってる牧野は。」

涙を拭いた類が教えてくれた言葉につくしの顔が赤くなる。

「褒められたら照れるとこもまったく変わってない。たとえ記憶がなくても、牧野は牧野だよ」

あきらがつくしの不安を見透かしたかのように、優しく言葉をかけてくれる。

この3人が自分と親しかったというのは信じられる、なぜなら皆つくしを見る目が優しい。




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いつも拍手ありがとうございます!

新年のご挨拶


いつもご訪問いただきありがとうございます。

すでに年が変わり1週間がたっておりますが、あけましておめでとうございます。

年末から子供たちが冬休みに入り、朝食を作り、遊び、昼食を作り、お出掛けし、夕食を作りお風呂に入れて絵本を読んで寝かしつけるという母親業のフルコースを味わっていました。

うちの子たちは0歳から保育園に通っており、こんなに家で子供と過ごすのは実は今年が初めての経験で楽しくもあり大変でもありました。

そして頭の中は常に献立のことで一杯で、全くお話が思いつかない日々。

いつもは話を最後まで書いてからアップしているのですが、昨日更新したMemories、まだラストまで書けていません。行き当たりばったりとなり、もしかしたら話の辻褄が合わない箇所も出てくるかもしれません。その時は温かい目で読んでいただければ幸いです。


そして実はMemoriesの前に1つ長編を準備していたのですが、結構重要な設定が他の2次作家様が最近更新されていたお話と駄々被りで。私の場合、原作ベースで話を考えるためどうしてもパターンが少なく、他の方のお話とテーマや設定が重なりやすいのですが、さすがにこのタイミングで同じような設定の話を後悔するものその二次様に失礼かと思い、一旦お蔵入りといたしました。

時期を見て、もしかしたらパス付で公開するかもしれません。


昨年は長く続けた仕事から一旦離れ、暇ゆえに二次に手を出してしまいましたが、こんなに多くの方にご覧いただけてうれしいばかりです。

今年は新しい挑戦を始め、また仕事も復帰する予定なので毎日の更新は難しいかもしれませんが、引き続き話にお付き合いいただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします。

Riina